光療法
 

うつ病の光療法

人は曇りや雨の日には気分が冴えず、よく晴れた日には明るい気持ちになりやすい傾向があります。データ上でも晴れの日が多い地域の人の方が、うつ病の発症率が低いとの報告があり、明るい光にはうつ病に対しての治療的効果があるとされています。これを利用したのが、光照射療法です。
 
医療機関では専用の器具を使い照射しますが、外に出て光を浴びることで同様の効果が得られます。光療法 は、薬物療法など強い力で強制的にうつを押さえ込むというイメージではなく、私たちの体に備わっている自己治癒力を高めるような自然の摂理に沿った治療法と言えます。

光療法(高照度光照射療法)とは?

 

  光療法の概要

 
光療法とは、2500ルクス以上の明るい光を浴びることで、生体リズムに働きかける治療法で、北米やヨーロッパなど、季節性のうつ病や睡眠障害が多い国で広く行われている治療法です。特に薬物療法よりも光療法の効果の発現は早いとされ、1週間程度から何らかの効果が現れる人もいます。
 
人は目で光を感知すると、それを脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)に送り、さらに松果体(しょうかたい)に送信しています。視交叉上核は、いわゆる体内時計の中心的な所で、松果体は眠りに関する、メラトニンというホルモンを分泌している所になります。
 
光療法等の強い光により、体内時計をリセットし、メラトニンの分泌が抑制されると、人は覚醒するという流れです。メラトニンはそれから約15時間後に多く分泌されるようになるため、夜に快適に眠るためにも、朝の光が重要であると言えます。決めた時間に睡眠を取りたいのであれば、15時間前に起床し、2時間以内に光療法を実施すると良いです。
光照射療法
体内時計とは?

生物には、1日を一定の時間で刻む体内時計が備わっており、この働きで人は夜になると自然な眠りに導びかれ機能を回復し、朝は自然に目が覚め活動的になるのです。体内時計の中心は脳の視交叉上核ですが、その指令は全身に伝わります。

人によりその時間はさまざまで24時間の人もいれば、25時間の人もいます(平均で24時間10分)。24時間から誤差のある人は、しだいに時間が狂ってきてしまうため、光を浴びることで毎日時間を合わせています。

体内時計が狂うと心や体に悪影響が現れ、いろいろな病気にもかかりやすくなると言われており、うつ病に関しては、夜勤等の交代制勤務を5年以上続けると、うつ病の有病率が30%近くまで上がったという報告もあります。

 

  光療法が適応となる人

 
特に季節性感情障害(SAD)に効果が高いと言われていますが、睡眠リズムの改善やセロトニン機能の正常化を促す働きから、最近では季節性のうつ病以外のうつ病にも効果があるとする報告もあります。
 
うつ病の薬物療法に反応しない人や、強い副作用が出る者、高齢者、妊婦等で薬物療法が実施できない場合にも適応となります。また、光療法は薬物療法との併用が可能なので、服薬ができる人は、うつ病の薬物療法との併用で、さらに高い効果が期待できます。
 
うつ病以外にも、昼間と夜間のリズムが崩れがちなために、日中の眠気や倦怠感を感じている人や、認知症にも効果があります。
 

季節性のうつ病(SAD)とは?

20代後半の女性に多いとされ、主に秋から冬、太陽光が不足する時期に、メラトニンやセロトニンの異常等によりうつ状態が現れるものです。冬に多くみられるので冬季うつ病とも言われます。冬季うつ病の症状は、比較的軽症で、多くは春や夏になると改善すると言われていますが、その時期になると、うつ病をくりかえしてしまうことも多くあります。

また、通常のうつ病では、不眠で食欲不振になることが一般的ですが、冬季うつでは、動物の冬眠のように、睡眠が異常に長くなったり、食欲が旺盛(主に炭水化物や甘いもの等)になったりする場合があります。冬季うつ病は、薬が効き難い傾向があり、光療法、ビタミン12の投与等が有効と言われています。

うつ病のタイプによっては、薬より効果がある

 

 光療法の効果と副作用

 
季節性のうつ病である場合は、薬物療法と同等か、それ以上の効果があるとする報告が多いです。しかし、季節性うつ病でないうつ病に関しても、効果があるとの報告があります( 特に断眠療法との組み合わせが効果的 )。光療法の効果は数回で現れる場合もありますが、一般的には1週間から3週間の期間が必要とされています。
 
光療法の中止後については、症状が再燃する場合もあれば、まったく症状が出ないこともあります。季節性のうつ病であれば、冬の時期だけ予防的に使用するという方法も効果があると言われています。
 
副作用については、眼精疲労、頭痛、焦燥、そう転などが出る場合が知られていますが、頻度は低く、重篤なケースは報告されていません。また、副作用が出た場合にも、ルクスや照射時間の短縮により改善されます。その他、網膜症等の特別な目の疾患がある場合や光に過敏な人などは、基本的に使用できません。
 

※ うつ病ではなく、躁うつ病の方は、そう転( 気分が上がりすぎる )の可能性があるため、光療法は避けて下さい。

光療法はどうして効くのか

 

 光療法のメカニズム

 
強い光を目が察知すると、メラトニンが抑制されて目が覚め、その15時間後にメラトニンが多量に分泌されると前項で述べました。眠りの神経伝達物質である、このメラトニンですが、実はうつ病と関連の深い、セロトニンが変化してできた物質になります( セロトニンの生成過程を参照 )。
メラトニンとセロトニンは相関する性質があるため、光によりメラトニンが抑えられると、逆にセロトニンが増えると考えられます。セロトニンが増えれば、神経伝達が上手く行われるので、うつ病の改善に効果が期待できますし、メラトニンとセロトニンのバランスが保たれれば、快眠により脳の神経が新たに作られ、これもうつ病の回復に好影響を与えます。
 
さらに、メラトニンには強い抗酸化作用を持ち合わせていたり、そもそも光には、ビタミンD3、プラスミン、プロスタグランジン、ヒスタミンなど生体に必要な物質の生成とも関っているため、総合的に良い効果が期待できます。
 
部屋の中で蛍光灯をつけていても、カーテンを開けずに過ごしていると、十分な光は得られません。部屋に引きこもり暗い中で過ごせば、昼夜逆転が起こるのも無理がないと言えます。一方、朝に光を浴びれば、日中はセロトニンが出て気分良く過ごせ、夜はメラトニンが出てぐっすり眠れるというわけです。

  光療法の課題

 
冬になると日照時間が少なくなり、夜が長くなる国では、季節性のうつ病患者も多く、そのような国で、光療法は治療効果等の実績もあり、さかんに行われていますが、日本では積極的に行われていません。
 
季節性のうつ病や睡眠障害に関する効果はすでに認められているにも関わらず、光療法は、照射に時間がかかる、日本では診療報酬に算定できない等の面から、積極的に実施している医療機関は少ない現状があります。診療報酬に算定できなければ、光療法を治療として行っても、その分の料金を請求できないので、広まっていかないのは当然と言えます。
 
しかしそんな中でも科学的に効果があるため、本当の意味でうつ病の患者さんに根本的な治療になるという面を重要視して、光療法を取り入れている医療機関もあります。また、光療法とまで行かなくても、朝起きて2時間以内になるべく光を浴びるようにと助言する医師もいます。
 
今のうつ病治療は、安易に薬物療法を行う傾向がありますが、光療法は、軽症の人や、薬が効かない、または使えない人などのために、今後もっと発展して欲しい治療法と感じます。

光療法の方法

 

 光照射療法は自宅でも行えます

 
特に難しいことはなく、光を浴びるだけです。季節性のうつで夕方になるとうつ病の症状が悪化する場合などは、夕方に補足的に浴びる方法もありますが、基本的には毎朝(約6時~10時)きまった時間に光を浴びます。
 
光の照度は2500ルクス以上が必要であり、通常の蛍光灯では500ルクス以下であり、効果がありません。ルクスとは照度の単位で、光源から人の距離によって変化するものです。デジタル照度計を使用すると、自分の周囲がどのくらいのルクスなのか調べることが可能です。
 
光の照射時間(30分~120分前後)についてはルクスにより変わります。晴天時に外を向かって窓際にいれば十分な光が得られますが、紫外線の問題や日当たりの悪い環境である場合等は、手軽に自宅で行えるように専用の器具を利用する方法も良いと思います。私も使用していました。
 
その場合は光を直視する必要はありませんが、光が視界に入るように器具をおく必要があります。その間何をやっていてもかまいませんが、ある程度近づけたほうがルクスが高くなるので、照射時間が短時間で済みます。
 

照射時間
ルクス 具体例
30分 10万 晴れた日の直射日光
30分
1万 晴れた日の木陰
 60分 5000 晴れた日の窓際 (南側)や、曇り空の下
 120分 2500 晴れの日の窓際 (北側)や、雨の日の下 

※ 照射時間は諸説あり、概ねの目安です。ルクスも条件等により変わります。 

光療法はうつ病の治療の中でも特に副作用の少ないものですが、すでにうつ病の治療を開始している方や、その他の疾患で通院されている方などは、主治医に相談の上行うことをお勧めします。